美女栽培 2 『明治スーパーカップル』 (6)
2015.07.17 Friday
さて、ついたわ!
相変わらず無駄に広い施設だなと思う。自分の大学見てても思うけど、大きければいいというわけじゃないんだよね。だって移動がだるいんだもの。
施設自体が広いのは頷けるし、駐車場が広いのも仕方ない。それだけ多くの来客を期待してのことなのだ。そこに文句を言うつもりはない。
けど、さぁ。
どうせなら、施設の外側にあるお店は全て外からの出入り口をつけてほしいよね。どのお店からも入れるの。そうすれば、こんな歩くこともないのに。
久々に大きな所へ遊びに来たために、私たちは勝手がわからなくなっていた。バスが停まって、降りたはいいけどどこから入ればいいのかわからない。っていうか映画館どこ。
覚えていると思っていても、意外と覚えていないものである。結局私たちは建物自体をひとつ隣のものと間違えていて、バス停から映画館がすぐ近くにあったのに気付かなかった。
まあ、迷うのも楽しいのだけど。
少し早めの電車に乗れてよかったんだと思う。映画館に着いたときの時間は当初の予定にかなり近かった。一本後になっていたら、もしかしたら余裕がなかったかもしれない。
「映画館といったら、ポップコーンですよね」
絶対残るよなぁ、それ。なんて思いつつ。
道中出された明ちゃんの提案を受けて、私は売店に並んでいる。明ちゃんの方は、私の分も合わせてチケットを買いに行っていた。
全く、便利になったものである。少し前までここの映画館のチケットは直接お兄さんお姉さんのところで買っていたから、人数分もらうならその人数で並ぶ必要があった。それが今や、完全に自動である。機械化である。タッチパネルのついた券売機で少しいろいろやればきちんと席までとれるのだ。学生証等はチケットを見せるときに一緒に見せればいいだけ。
高校生が一枚、大学生が一枚。観る映画は彼女に任せる。彼女の観たいもののチケットを買ってきてくれればいい。お金は後で払うことにする。
大きいものを見ると大きいものを買いたくなってしまう。そういうわけで、明ちゃんは適当な量のフライドポテトなどといった選択肢は一切排除して、ポップコーンにくぎったけであった。たしかに、アメリカ人じゃないから普段ポップコーン食べないしね。アメリカ人もいつも食べてるわけじゃないと思うし。
彼女が選んだものはオレンジジュースだった。かわいい。ちなみに私はコーラだ。なんでかって?色が明らかに違うからである。
並びながらいろいろ考えていた。やっぱり、せっかくなのだから彼女にエキスを投与してあげたい。そりゃ方法は大変だけど、彼女への恩返しをしっかりしてあげたい。建前上は、映画代と飲食代のおごり。うまくいけば、嘘を見抜く力もプレゼント。
有林さんは、キスを介してでないとエキスを投与できないということであったが、本当にそうであろうか。私の中である可能性が浮上する。
普通に飲めばいいんじゃない?
私はポケットを探る。試験管。さすがに、こんな謎の入れ物に入った液体を飲んでというわけにもいかない。だからこそこれなのだ。これとは、これである。
つまり、彼女のオレンジジュースにこいつを混ぜてみる。そうすれば彼女はエキスを体内に取り込むことができるはずだ。
だから私は、もらったばかりのドリンクにこいつを混ぜ込むことにする。
時間も時間だったので、チケット販売機の方はほどほど混んでいるようだった。微妙に申し訳ない気分になる。けれど、絶好のタイミングでもあった。
映画のビラがたくさん並べてある、円を描くように伸びたテーブル。半周分にビラが並べられてあって、残りもう半周は同じビラが対称的に並べてある。
そこのスペースに、トレイを置く。オレンジジュースの入った容器のふたを外す。黄色に近いオレンジ色の海がそこに広がっていた。
なんでまあ、映画館とかのドリンクってこうも氷ばっかなのかね。しかも、やたら背が高い。
ポケットから出したエキスのふたを開ける。中を覗くと、液体に色らしい色はない。もっと毒々しいものだと思っていたのだが、さらさらとした半透明なものだった。
まあ、ほとんど唾液だと思うしね。
試験管の口をオレンジジュースの水面に近づけて、傾ける。とろりと液体が垂れていき、浮いた氷を少しだけ揺らす。
念のため、エキスは全て入れないで置く。半分ほど残して、試験管にふたをして再びポケットに収める。プラスチックのふたをオレンジジュースに被せて、完成。
ああ、妙に疲れた。罪悪感っていうか、なんていうか。睡眠薬盛ったりするのってこういう気分なんだろうか。
ちょうど明ちゃんが声を上げて駆け寄ってくる。手には紙が二枚。
「お待たせしました」
どうぞと手渡された、大学生と書かれた方のチケットを受け取る。
「ありがとう。こっちも買っておいたよ」
間違えることはないと思うが、こっちがコーラでこっちがオレンジジュースという説明を加える。彼女が頷いたのを確認して、私はトレイを持って彼女と並んでシアターの方へ足を進めた。
チケット確認のお姉さんにいったんトレイを持ってもらったりしながら、私は学生証とチケットを提示して、再びお姉さんからトレイをもらって明ちゃんとともに指定された番号のシアターへ。
チケットをもらったときに「あぁ、やっぱりな」と思ったのだが、彼女は結局「ジェノサイド赤ちゃん」を観ることにしたらしい。私も覚悟はしていたが、実際これから観るとなると少しだけ緊張してきた。
明ちゃんにドアを押してもらい、シアター内に入っていく。ゆるめのスロープを上って行って、右に曲がる。たくさんの座席。チケットに書かれた席を探して、私たちは座った。観る者が観るものであるため、子どもはいない。ちらほらとカップルが見えるが、基本的にはおひとり様が座っていた。
意外だったのは女性が多かったことだが、まあどうでもいい。
スクリーンに向かってやや左側。シアター中央よりやや後ろの席。いいポジションだ。
私は明ちゃんの右に座っている。上映はまだ始まっていない。私は肘置きの所にうまくトレイを嵌めて、彼女の方にオレンジジュースをやった。
ストローの袋を破り、彼女が手にジュースをとる。カップを持ち上げた時に、露がぽたぽたと落ちた。ストローを差して、彼女が口づける。
さあ、どうなるか。
彼女の喉が動くのを、まだ明るいシアターの照明の下で確認する。
3回ほど口に含んで、またカップを置く。ふぅと一息ついて、「冷たいですね」とこちらに笑いかけたので、「そうだね、氷も多いし」と適当な返しをした。かわいい。
「お腹冷やさないようにしないとね」
私は前を見て付け加える。返事はなかった。
ん?返事はなかった?
私はバッと左を見る。彼女は寝ていた。それはもう、すやすやと。そして。
ずりゅん。
頭の中で響く不快音。あぁ、まただ。
シアター内の照明が薄暗くなる。キスをするなら、今しかなかった。
相変わらず無駄に広い施設だなと思う。自分の大学見てても思うけど、大きければいいというわけじゃないんだよね。だって移動がだるいんだもの。
施設自体が広いのは頷けるし、駐車場が広いのも仕方ない。それだけ多くの来客を期待してのことなのだ。そこに文句を言うつもりはない。
けど、さぁ。
どうせなら、施設の外側にあるお店は全て外からの出入り口をつけてほしいよね。どのお店からも入れるの。そうすれば、こんな歩くこともないのに。
久々に大きな所へ遊びに来たために、私たちは勝手がわからなくなっていた。バスが停まって、降りたはいいけどどこから入ればいいのかわからない。っていうか映画館どこ。
覚えていると思っていても、意外と覚えていないものである。結局私たちは建物自体をひとつ隣のものと間違えていて、バス停から映画館がすぐ近くにあったのに気付かなかった。
まあ、迷うのも楽しいのだけど。
少し早めの電車に乗れてよかったんだと思う。映画館に着いたときの時間は当初の予定にかなり近かった。一本後になっていたら、もしかしたら余裕がなかったかもしれない。
「映画館といったら、ポップコーンですよね」
絶対残るよなぁ、それ。なんて思いつつ。
道中出された明ちゃんの提案を受けて、私は売店に並んでいる。明ちゃんの方は、私の分も合わせてチケットを買いに行っていた。
全く、便利になったものである。少し前までここの映画館のチケットは直接お兄さんお姉さんのところで買っていたから、人数分もらうならその人数で並ぶ必要があった。それが今や、完全に自動である。機械化である。タッチパネルのついた券売機で少しいろいろやればきちんと席までとれるのだ。学生証等はチケットを見せるときに一緒に見せればいいだけ。
高校生が一枚、大学生が一枚。観る映画は彼女に任せる。彼女の観たいもののチケットを買ってきてくれればいい。お金は後で払うことにする。
大きいものを見ると大きいものを買いたくなってしまう。そういうわけで、明ちゃんは適当な量のフライドポテトなどといった選択肢は一切排除して、ポップコーンにくぎったけであった。たしかに、アメリカ人じゃないから普段ポップコーン食べないしね。アメリカ人もいつも食べてるわけじゃないと思うし。
彼女が選んだものはオレンジジュースだった。かわいい。ちなみに私はコーラだ。なんでかって?色が明らかに違うからである。
並びながらいろいろ考えていた。やっぱり、せっかくなのだから彼女にエキスを投与してあげたい。そりゃ方法は大変だけど、彼女への恩返しをしっかりしてあげたい。建前上は、映画代と飲食代のおごり。うまくいけば、嘘を見抜く力もプレゼント。
有林さんは、キスを介してでないとエキスを投与できないということであったが、本当にそうであろうか。私の中である可能性が浮上する。
普通に飲めばいいんじゃない?
私はポケットを探る。試験管。さすがに、こんな謎の入れ物に入った液体を飲んでというわけにもいかない。だからこそこれなのだ。これとは、これである。
つまり、彼女のオレンジジュースにこいつを混ぜてみる。そうすれば彼女はエキスを体内に取り込むことができるはずだ。
だから私は、もらったばかりのドリンクにこいつを混ぜ込むことにする。
時間も時間だったので、チケット販売機の方はほどほど混んでいるようだった。微妙に申し訳ない気分になる。けれど、絶好のタイミングでもあった。
映画のビラがたくさん並べてある、円を描くように伸びたテーブル。半周分にビラが並べられてあって、残りもう半周は同じビラが対称的に並べてある。
そこのスペースに、トレイを置く。オレンジジュースの入った容器のふたを外す。黄色に近いオレンジ色の海がそこに広がっていた。
なんでまあ、映画館とかのドリンクってこうも氷ばっかなのかね。しかも、やたら背が高い。
ポケットから出したエキスのふたを開ける。中を覗くと、液体に色らしい色はない。もっと毒々しいものだと思っていたのだが、さらさらとした半透明なものだった。
まあ、ほとんど唾液だと思うしね。
試験管の口をオレンジジュースの水面に近づけて、傾ける。とろりと液体が垂れていき、浮いた氷を少しだけ揺らす。
念のため、エキスは全て入れないで置く。半分ほど残して、試験管にふたをして再びポケットに収める。プラスチックのふたをオレンジジュースに被せて、完成。
ああ、妙に疲れた。罪悪感っていうか、なんていうか。睡眠薬盛ったりするのってこういう気分なんだろうか。
ちょうど明ちゃんが声を上げて駆け寄ってくる。手には紙が二枚。
「お待たせしました」
どうぞと手渡された、大学生と書かれた方のチケットを受け取る。
「ありがとう。こっちも買っておいたよ」
間違えることはないと思うが、こっちがコーラでこっちがオレンジジュースという説明を加える。彼女が頷いたのを確認して、私はトレイを持って彼女と並んでシアターの方へ足を進めた。
チケット確認のお姉さんにいったんトレイを持ってもらったりしながら、私は学生証とチケットを提示して、再びお姉さんからトレイをもらって明ちゃんとともに指定された番号のシアターへ。
チケットをもらったときに「あぁ、やっぱりな」と思ったのだが、彼女は結局「ジェノサイド赤ちゃん」を観ることにしたらしい。私も覚悟はしていたが、実際これから観るとなると少しだけ緊張してきた。
明ちゃんにドアを押してもらい、シアター内に入っていく。ゆるめのスロープを上って行って、右に曲がる。たくさんの座席。チケットに書かれた席を探して、私たちは座った。観る者が観るものであるため、子どもはいない。ちらほらとカップルが見えるが、基本的にはおひとり様が座っていた。
意外だったのは女性が多かったことだが、まあどうでもいい。
スクリーンに向かってやや左側。シアター中央よりやや後ろの席。いいポジションだ。
私は明ちゃんの右に座っている。上映はまだ始まっていない。私は肘置きの所にうまくトレイを嵌めて、彼女の方にオレンジジュースをやった。
ストローの袋を破り、彼女が手にジュースをとる。カップを持ち上げた時に、露がぽたぽたと落ちた。ストローを差して、彼女が口づける。
さあ、どうなるか。
彼女の喉が動くのを、まだ明るいシアターの照明の下で確認する。
3回ほど口に含んで、またカップを置く。ふぅと一息ついて、「冷たいですね」とこちらに笑いかけたので、「そうだね、氷も多いし」と適当な返しをした。かわいい。
「お腹冷やさないようにしないとね」
私は前を見て付け加える。返事はなかった。
ん?返事はなかった?
私はバッと左を見る。彼女は寝ていた。それはもう、すやすやと。そして。
ずりゅん。
頭の中で響く不快音。あぁ、まただ。
シアター内の照明が薄暗くなる。キスをするなら、今しかなかった。
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